世界ランキングが話題になる中で、もう一つ注目してもらいたいのが各審査員のベストアクアリウムです。
IAPLCでは10名の審査員による総合得点で世界ランキングが決定しますが、ベストアクアリウムは各審査員が最も高く評価した作品となります。そのため毎年、印象的な表現の作品が選出されています。

Best Aquarium Selection by Mr. Shogo Yamaguchi

山口正吾氏（日本）の評価コメント

IAPLCにおいて上位10作品は6つの項目に付けられたポイントの合計で順位を決定します。私がベストアクアリウムとした「太古の巨木」は、いわゆる森林系の作風と捉えることもできます。しかし、水中感もしっかりと表現されており、森林系であったとしても水没林と捉えることもできます。そのため審査項目の一つであり、100ポイント中50ポイントを占める「棲息環境の再現」においても高い評価をつけることができました。その他、無理がなくそれでいて強い印象を残す流木による構図は「構図と水草の配植」に、モス類を多用した時間の経過を感じさせる植栽は「自然感の演出」や「長期維持の可能性」に、鬱蒼とした植栽にあってレイアウトに緊張感を与える化粧砂は「オリジナリティと印象度」において、それぞれ高評価につながる要因となりました。審査を振り返れば隙のない作品がベストアクアリウムとなった感があり、そのことからもIAPLCの歴史と作品水準の高さを改めて実感することになりました。

Best Aquarium Selection by Mr. Yusuke Homma

本間裕介氏（日本）の評価コメント

最後まで悩みましたが、「ストーミング（嵐）」という作品を私のベストアクアリウムとしました。奥行きのある構図と細かな植栽が素晴らしいことはもちろん、決め手となったのは「ストーミング」というタイトル通り、魚たちが嵐から避難するように泳ぐ様子など一つのストーリーが感じらる情景が見事に水景として表現されている点にありました。水面の波のつくり方を工夫されている方は多いですが、水面の表現で嵐をも感じさせるテクニックには驚かされました。また最近は影の部分が明るく違和感が感じられる作品が多い中、影の使い方がうまく構図のコントラストが出ていてメリハリのある写真の仕上がりになっている点も良かったと思います。

Best Aquarium Selection by Mr. Albert Connelly Jr.

アルバート・コネリー Jr. 氏（アメリカ）の評価コメント

自分が上位に選出した作品から1作品を選ぶことは大変難しいものでした。何度も審査項目を参照し、技術と効果による圧倒的な美しさに無我夢中にならないよう自分自身に言い聞かせました。審査ガイドラインにあるように、レイアウトは自然で何よりもまず魚や水草にとって健康な環境であるべきです。私が選んだベストアクアリウム「イマジン」では、古びた風合いの太い流木の使用や時間の経過を感じさせるモスと水草の垂れ下がる佗び寂びにも通じる卓越した表現が印象的でした。同時に、水景には生命力と希望があふれていました。多くの窪みやわだち、水草が定着して繁茂するためのオープンエリア、流木が複雑に突き出たり、泳ぎ通れる隙間があったりするのは、魚が安心して豊かな生活を送れる相互作用的な素晴らしい雰囲気をつくり出しています。我々が自身で所有する水槽でもわかるように、魚は身を隠し避難できる安全な場所がたくさんあれば、安心してオープンスペースで泳ぐようになります。ここには畏敬の念を抱く自然風景の表現があり、自然に垂れ下がる植物、草、茂み、野生で長年倒れていた木などにより壮大なジャングルの景観を思い起こさせます。または、別の見方をすれば、遠くに険しい山、低木の木立、ぶら下がっている植物は不思議と秘密に満ちた巨大な古代の崖の上で垂れる野生のもつれた蔓のように想像できます。全体的に、これは美しく完成されたネイチャーアクアリウムであり、巧みかつ芸術的に表現された自然界の雄大な光景であり、本質的に素晴らしい魚のためのアクアリウムだと思います。

Best Aquarium Selection by Mr. Adip Sajjan Raj

アディプ・サジャン・ラジ氏（インド）の評価コメント

「エンブレイス」と題されたこの水景はとてもユニークであり、自然の水中芸術を体現したものだと思います。有茎草の選択にあるその絶妙なバランスは大胆過ぎず、緑から黄色、黄色からオレンジ、そして赤へと美しいグラデーションがとても優雅です。またウォーターフェザーとモスの使い方が流木を特徴的に見せ、時間の経過も表しとてもよくまとまっています。この水景では奥行きがうまく表現され、栄光の中で自然を「抱擁（エンブレイス）」する物語がきちんとつくり上げられています。使われている魚はレッド・テトラですが、派手過ぎず、流木の色と使用されている化粧砂との間で一体化し、このレイアウトにぴったりです。作者のレイヤリング技術（多層のレイアウト構成）もとても素晴らしいと思いました。作者に称賛を。これは自然の摂理に則った手の込んだ芸術作品です。

Best Aquarium Selection by Mr. Adam Paszczela

アダム・パスチェラ氏（ポーランド）の評価コメント

「始まり 夜明けの光」と題されたこの作品は、忘れがたいほど美しく平和的な水景です。実在しない風景でありながら、どこかで見たような光景でもあり力強い印象を受けました。これは水草と石の両方に素晴らしい暖色系の素材を選び、トップライトを使用したからです。レイアウト構成は燃え盛る炎のようですが、同時に安らぎと平和をもたらしています。これが他の作品と違うところです。構成はネイチャースタイルのような典型的な形ではありませんが、細部に自然への親しみを感じることができます。先史時代を示唆するこの題名は、作者が表現したかった意図を見る者に明確に伝え、またライティングの遊びを示すシンプルな題名は、作品の受け取り方と解釈の自由を可能にします。そのような中立性が興味と創造性を同時にかき立てます。また内部のスペースにいわゆる橋と呼ばれる表現や高い丘、両サイドの垂れ下がる水草の細かな表現のバランス、暖色系水草での仕上げなど非常にダイナミックな雰囲気で見る者を温かい気持ちにさせます。アイデアとディテールへの配慮が素晴らしいです。マンガの世界をうまく取り入れたこともアレンジとしてプラス要素となっていると思います。この作品からは、好意的なメッセージを感じることができました。

Best Aquarium Selection by Mr. Yu-Fa Huang

黄 裕發氏（中華台北）の評価コメント

この作品は、石を使ったネイチャーアクアリウムです。構図はバランスがよく、安定感があります。石の配置も全体的に高低感があり、バランスが取れています。水草の配植もちょうどよく、さまざまな色が相互に引き立て合っています。水景は生き生きとし、活力を感じさせます。石を大量に使いながら、奥行きをうまく表現している点もよかったと思います。さらに手前の小石は、この水景の自然感を高める効果を果たしており、この水景を見た瞬間、本当の大自然が目の前にあるように感じました。私のとても好きな作品です。

Best Aquarium Selection by Mr. Oliver Mengedoht

オリバー・メンゲドート氏（ドイツ）の評価コメント

壮観なる「川のほとり」は、本物の川の風景であり、一瞬で私の目を奪いました。信じられないほどの多様な緻密さ、小さな生き物への愛、全体をまとめる構成要素すべてへのアイデア。流木の根と前景にあるいくつかの小石、本物の川床のような後方の根、水平線で見えなくなる景色、そういったすべてが十分な奥行きと魚や他の生き物への隠れ家を与えます。この小さな風景の中で、目をあちこちへと彷徨わせてみれば、いつでも新たなニュアンスの発見ができます。現実的ですがデザイン性もあります。この水景の類まれなデザインを称えましょう。

Best Aquarium Selection by Mr. André Longarço

アンドレ・ロンガルコ氏（ブラジル）の評価コメント

この作品に私は思わず息を飲みました。心を真っ白にし、ただこの美しい作品のディテールを観察しました。使用されている水草の種類や量は少ないながらも、影やコントラストの精巧な演出があります。この作品は私に壮大で力強い景色を見せてくれました。構図は慎重に制作され、水草や影によって美しく覆われています。この技術によってつくり出されたボリュームが、この作品に奥行や遠近感を与えています。作品右側に配置された珍しい形をした大きな石によって、単調な感覚を与えず、作品両サイドが均等に映っています。中央にある小道はとてもうまく造られており、この景色に思いやりの心を与えています。小道の終わり、一番上の白い砂の近くは、まるでその温かい愛に包まれているかのようです。レイアウトが水面へどのように反射するかを考慮するだけでなく、水槽上面の四隅にまで気を配っている点も好きです。それらは特別に精巧ではないかもしれませんが、一つの作品としてうまく調和しています。魚の選択はありきたりなものでなく、とても良いと思います。トランスルーセントグラスキャットフィッシュは存在を主張しすぎることなく、景色によく馴染んでいます。たった１点この作品で留意するのは、前景で小道が分岐する点です。これによって見る者の注意が散漫し、興味が失われてしまいます。それ以外、健康的な水草、作品としての素晴らしい調和、精巧な構図、印象的なスタイル、そして作品から感じ取れる作者の魅力。このすべての要素によってこの作品は、私の審査において素晴らしいグランプリに輝きました。おめでとうございます。

Best Aquarium Selection by Mr. Jiangang Diao

刁建刚氏（中国）の評価コメント

この水景は見どころにあふれ、私の目はすっかり奪われてしまいました。見た瞬間、この作品に魅了され忘れられません。巧みな構図レイアウト、十分な奥行き、細かなつくりは神秘的な雰囲気を見事に演出しており、とても美しいです。写真は静的なものですが、そこには石組の無限の強さ、水草の生命力、自然の動的な創造力を感じることができました。石の強さを感じさせながらも静かな雰囲気もあり、静と動の間で見る人を幸せな気持ちにさせます。じっくり見ると、すべての細部が完璧に融合し、さりげない箇所でも何度見ても飽きることがなく、完全に魅了されました。まるで、本当の静かな渓流にいるようです。この水景は、技術面、構図、美しさ、それぞれを極めたレベルにあると言えます。私は心を奪われたと同時に、この水景と作者を敬い、自然への愛で心は満たされました。

Best Aquarium Selection by Mr. Gireg Allain

ジレッグ・アレイン氏（フランス）の評価コメント

ベストアクアリウムの選出は本当に難しかったです。上位10～20位の選択では、スタイルはまったく異なりつつも、どの作品にも自然感があり、各作品の質は素晴らしいものでした。ですが、この作品は、一目見たときから私の目に留まりました。その後、審査を続けている中でもこの作品は存在感があり、目を離すことができませんでした。そして、私を魅了しているのはこの作品の構図なのだ、ということに気がついたのです。作品全体で旋回の流れを完璧に表現しており、それは葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を思い出させました。作品全体としての統一感に目を奪われ、そしてその統一感と動きの理想的なバランスは私を魅了しました。もちろん上記で述べたことは大切なことなのですが、それはただ一般的な印象に過ぎず、構図の詳細を見ることも重要でした。この作品を初めて見たとき、あなたの目には、想像性に富んだ夢のような風景が映ることでしょう。ですが、より近くで見てみると、実際はすべてが自然体です。「波」はまるで空中に浮いているように見えますが、これこそが熟練した技術の表れなのです。石の使い方は完璧であり、右側は波の跳ね返りや水しぶきを再現しており、まるで本物のようです。自然感は、細部まで考えられた配置や石の使い方だけでなく、素晴らしい植栽方法によっても演出されています。キューバ・パールグラスが景色全体を覆い、それが調和を生みナチュラルな感じに仕上げています。つくったばかりの作品ではないからこそ、すべてが上手く機能しているのです。最後に、数匹のネオン・テトラは、存在感を強調し過ぎることなく作品に美しい活気を与えています。